映画祭で有名なカンヌから20キロ内陸に入った山沿いに、香水で有名な街グラースがあります。
街に入ったとたん、どこからともなく良い香りがします。少し歩くとまた別の香りがするので、街の至る所に香水工場がある様です。
調べてみると、グラースには香水に関わる企業が60もあって、3500人もの雇用を生み出しているらしいのです。
グラース市の公式スローガンは「世界的香水の首都」!これも大げさではない様で、グラースの香水産業はフランス全体の香水産業の収益の50パーセントを占め、世界全体の収益の10パーセントをも占めるという数字がでています。
ここで少しグラースの歴史の話をしたいと思います。
グラースで香水が街の主要産業になったのは18世紀の終わり。
その前まではなんと、革なめしが主要産業だったのです。
グラースで生産される革製品は質が大変良く、特に 革手袋が裕福な上流階級の婦人達に人気でした。しかし革手袋の欠点は、その臭い。手袋を外した後もしつこく手に残るので困る、という意見が婦人達から聞かれました。そこである なめし職人が香水つきの革手袋を考えつきました。早速商品化したところ、それが大人気商品となりました。
こうしてしばらく「香り付き革手袋のグラース」として名が売れましたが、革製品の税があがったことや、ニースの台頭によって競争力を奪われたことなどが原因で革なめし産業は衰退し、香水産業だけが後に残ることとなります。
グラースでは南仏らしい香り高い花々が生産されています。
その代表格といえば、ラベンダー、ジャスミン、野生オレンジの花、ミモザなどでしょう。
香水の主な原料となるジャスミンの生産は特に盛んでした。ジャスミンの香りは日の出とともに最高になります。生産者はその瞬間を狙って一つ一つ手作業で花を摘み、素早く工場に運び精油を抽出するのです。そんな田園光景が70年代頃までは当たり前に見られました。
しかし変化は起こりました。
70年代から80年代にかけて大規模な外資企業が進出してきて、古くから続くファミリー企業を買収し始めたのです。
買収もとの企業は進んだ科学技術を持ち込み、グラースの企業は伝統とノウハウを提供しました。
結果、昔ながらの原材料の生産による収益が現在では半分以下になり、合成香料(とくに食品香料)の生産に取って代わられました。
近年のフランスでは人件費の安い海外に産業が流れがちです。
そんな中でもグラースの香水産業は生き残りをかけて柔軟に変化している、とても良い例なのではないでしょうか。
さて、弊社ではグラースの香水工場を訪ねるツアーをご提供しています。公共交通機関の乗り継ぎで1日かかるところを半日でまわることのできる、グラースとピカソ美術館とカンヌがセットになったお得なツアーです。